生まれた時から選ばれた存在だった。
くすんだ髪色の両親とは似ても似つかぬ美しい金髪に、まるで水面のような艶やかな瞳。
皮膚は陶磁器のようだと言われ、蝶よ花よと育てられ、特別な存在なんだと嫌でも思い知った。
転機は10歳になるかならないかぐらいの頃だったように思う。
村の中に疫病が流行った。
それはとても緩やかに始まって、気づいた時にはもう既に村人の半数以上がまともに動くことができないでいた。
元々若者が特別多かったわけじゃない。他の村との交流も少なく、だからこそ私はヴァルキリーという立場にありながら自由に過ごせていたともいえるだろう。
一人、また一人と命を失っていく中で、私の祈りは届かないままに日は過ぎていった。
懸命に目をつむり、祈りを捧げた。どうか私たちをお救いください。神は答えない。
―――もしかすると、神は私たちを救いなどしないのかもしれない。

そうして一日が経ち、二日が経ち、いよいよ自身が動くことすら難しくなった頃、その人はやってきた。
彼女はどこにでもいそうなドワーフだった。髪を一つに結び、ちょこんと鼻に載せた眼鏡はどこか可愛らしかった。
彼女は村の惨状を見ると、何人かの目や口を見て、森に入っていった。
次に戻ってきた時には、多くの葉や実を手に持ち、それを煮詰めたり混ぜたりして、村人に飲ませていった。
ゆっくりゆっくりと、一人ずつ飲ませていったあと、最後に彼女は私のところへやってきた。
「ごめんね、遅くなって」
なんということだ。
あなたが謝るような必要などないのに。
それどころか、疑うような心持ちさえあった私のほうが愚かだったのだ。
彼女は一冊の本を私に握らせた。どこにでもありそうな本だ。多くの薬草と薬効について書いてある、なんということのない本だった。
しばらくして、私は街に出た。もっと多くを学ぶために。
もっと多くの知識を得るために。
もっとあの人の隣に立つべき、一人の神官となるために。